青春学園テニス部部長・・・手塚国光
氷帝学園テニス部部長・・・跡部景吾
この二人はCDのレコーディングのため、とあるスタジオに来ていた。
手塚は『Last Say Goodbye』
跡部は『Insight』
この時跡部は彼女を一緒に連れてきていた。
如月瑠璃・・・ひとつ年下の少女。
氷帝ではこのカップルを知らない者はいないほど、跡部は彼女を溺愛しているのである。
が、青春学園の手塚がそんなことを知るはずもない。
それに実は手塚は恋というものをしたことがなかった。
だからこの歌を歌うのをきっかけに、してみようかな?などと思っている彼。
運の悪いことに、惚れた相手は跡部の彼女。
この手にはとことん鈍い手塚。
二人を見た時も、ただ、仲が良いなとしか思わなかったのだろう。
少し緊張しながら収録する部屋に入る。
最初が自分だったからだ。跡部は最後。
ドキドキ・・・・・・。
ギクシャクしながら中に入ろうとする。
が、その時跡部が声をかけてきた。
「何だよ手塚。緊張してんのか、あーん?」
「・・・まぁな」
「は、俺様は緊張なんざしてないぜ。まだまだだな」
「あ、あの・・・がんばってくださいね!」
「あ、あぁ。ありがとう(照)」
「さっさと行け!(怒)」
じとーーーーーっと手塚をにらみつける跡部。
頬を赤くしながら部屋に入る手塚。
跡部の隣で跡部の手を握りながらのほほーんと笑っている瑠璃。
・・・・・・妙な三角関係が出来上がりつつあった。
そして初めて恋というものをしった手塚国光。
初恋にも関わらず、それは失恋となりそうである・・・。
「瑠璃、俺様のこと好きだよな?」
「大好きですっv」
「手塚や他の奴等のとこなんかに行くなよな?俺だけ見てろ」
「勿論ですよ景吾先輩!だって・・・」
「?だってなんだ?」
「この間の誕生日の時にプロポーズしてくれましたしw」
「俺様にはお前以外必要ないからなぁ。それに俺様の愛を受け止められる奴はお前しかいないだろ」
「あはっ・・・私の愛を受け止められるのも景吾先輩しかいませんよv」
ここ・・・スタジオなんですけど。
眼のやり場に困るし!!!!
こんな所でいちゃつくな中学生!
中学生のくせして生意気だぞ!!
なーんていうスタジオ内部の独身で寂しいおじさん軍団の冷たい視線も物ともしない二人。
二人の世界を展開中だ。
ハートが飛んだり華が散ったり。
挙句の果てには天使まで見えたり。
甘すぎる糖分でスタジオ内部が溶けてしまいそうだ。
しかも、抱き合ったりキスしたり。
何なんだお前ら!
と叫びたくなるのも無理ない。
――――がちゃり
そんな二人を現実に引き戻したのは手塚が戻ってきた音。
あわてて素早くぱっと離れる。
・・・・・・・・・ちょっと待て。
俺たちがいた時は平気なのに、なんで彼がくると離れる!?
という疑問はあえて捨てる。
「次は俺様だな」
「お前はほんとに相変わらず・・・」
「あーん?きこえねぇなぁ?お前にだけは負けないぜ手塚ぁ!」
―――跡部レコーディング中・・・
こちらを向いていない。(当然です)
今がチャンスだ。
「あの」
「?なんでしょうか??」
「俺、あなたが好きなんです」
言った!
ついに、ついに!!
手塚、遅すぎる春の到来か!?
が。返ってきたのは・・・。
にっこり笑顔とyesの返事、ではない。
確かに笑顔ではあるのだが。
「ごめんなさいm(_ _)m」
「っ・・・・・・」
あっけなく散る恋の華。
手塚国光の初恋であった。
真っ白になる手塚。背景には雷も走っていたりする。
「???」
急に動きを止めた手塚に、はてと首を傾げる瑠璃。
大丈夫ですかと目の前で手を左右に振っても反応がない。
そして跡部が戻ってきた。
ちらりと手塚に眼を移す。
にやりと笑う。
やはりな。
どうやら予想済みだったよう。
わざと瑠璃の肩を抱きしめ、ちゅっと軽く口付ける。
ビシィッ・・・・・・
そんな音を立てて皹が入り、ガラガラと崩れ去る手塚。
後ろではハーッハッハッハと跡部の高笑い。
その横で困ったように微笑みながらも崩れた手塚を心配する。
「にしてもだ。俺のいない間に告白するとはいい度胸だな」
「・・・・・」
「どうせ振られだんだろ?」
「・・お前とどういう関係なんだ?」
眼を伏せながら問う手塚。
すでに跡部の術中である。
ほら・・・
にやりとそんな効果音がつきそうな程の笑みを浮かべている。
「俺様とどういう関係か知りたいらしいぜ瑠璃」
「え、えっと・・・その・・・」
「教えてやれよ、きっと驚くぜ」
「あの・・・私、・・・跡部先輩と付き合ってるんです・・・」
ピキッ
あーあー・・・また固まったよ。
器用だな、青筋たてながら石化するなんて。
「クックック・・・残念だったなぁ手塚よ。瑠璃は俺の女なんだよ」
「!」
「・・なに照れてんだよ;」
「俺の女だって・・・初めて言ってくれたじゃないですか;」
「そうだったか?じゃあ今日からたくさん言ってやるよ」
固まる手塚を残してスタジオを去る二人。
手塚の頭の中にはいつまでも跡部の高笑いが響いていたとかいないとか。
―――そして関東大会
「・・・・・・手塚、君なにかやったの?」
「いや」
「じゃあ何で氷帝レギュラーがこっちを、ていうか君だけど・・にらんでるのかな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・知らん」
「部長、質問っス」
「なんだ?」
「あっちのマネージャーと仲いいんすか?」
「よくない」
「なんか部長に手を振ってますけど」
「・・・;」
「あ、跡部さんに怒られてますねあの子」
「女の子に怒るなんてだめだなぁあとべぇは」
整列及び挨拶時。
「手塚・・・この間は瑠璃が世話になったな」
「世話をした覚えはないが」
「しらを切るつもりか?まぁいい・・・精々楽しんでいってくれよ」
―――青学陣地内
「やっぱり何かしたんだろ手塚!!」
「何もしないのにあの跡部が怒るはずないしね」
「手塚ー素直に言ってみそー?」
「・・・菊丸先輩それ向日の口調・・・」
「跡部の彼女に告白したんや。な、手塚」
『忍足・・・!?』
「やーちとうちの帝王の機嫌が悪ぅてどうしようもないんよ」
「はぁ・・・手塚、本当なのかい?」
「・・・・・・・・」
「話すも話さんのも自由やけどなぁ・・・事を起こしたのはアンタや。アンタが解決してくれんと俺らが困る」
「なんで君たちが困るんだ?」
「あれ、見てみぃ」
急に現れた忍足に驚く不二たちだが、だんまりを決め込む手塚を放って、指された方を見る。
そして呆気にとられた。
跡部が瑠璃を腕の中に閉じ込めながら、向日や他のレギュラーたちに八つ当たりしているではないか。
口を開けば毒舌が飛び出し。
気に入らない事を言った奴には問答無用で鉄拳制裁。
瑠璃に話しかけようものならそれに足蹴りもついてくる;
「・・・地獄やろ?」
「手塚。行ってきなよ」
「・・・」
「俺も行った方がいいと思うんだ」
「・・わかった」
「あ、ちょっとあれやばいんじゃにゃい!?;」
「あー・・キレてもうたか跡部・・・」
「まるで人事ですね」
「人事やろー?俺は安全圏にいるんやから」
監督が瑠璃に話しかけようとした。
それだけ。
ただそれだけなのに。
なんでこんな事になっているのか。
跡部のあまりの怖さに監督まで青ざめて反論できずにいる。
「監督!なに勝手に俺の瑠璃に声かけようとしてやがるんですか!?大体今の季節分かってんのか!!その暑苦しい格好どうにかしやがれ!
忍足っさっさと手塚連れてこねぇかっ」
「景吾せんぱぃ・・・・・・怖いですよー;」
「あぁ、瑠璃ごめんな?手塚が来て話が終われば・・・・それまで待ってくれ」
「うぅ・・・わかりました;」
「ってあぶねぇな!!何処見てやがる宍戸っ」
「あ、わ、わりぃっ!;」
「謝ってすむか!死ね!!」
「ちょっタンマっ・・・ぎゃぁぁぁぁぁっ」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「忍足さんだっけ。呼ばれてるみたいだけど?」
「あかん・・・俺あそこ戻るの嫌やわ・・・」
「アンタあっちの生徒でしょうが」
「やかましいわ・・・・お前にはわからん」
「むっ」
思わず現実逃避したくなるような光景に頭を抱える忍足だが、桃城につっこまれて言葉をつまらせる。
宍戸が沈没した今、自分が手ぶらで戻るわけにはいかない;
「侑士ーーー」
「ん?」
「侑士早く手塚さん連れてきてよ。跡部も瑠璃も待ってるよ?」
「舞佳?;」
「はやくこないと侑士だけ特別強化メニューにされるよ?」
「う、嘘やろ!?行くで手塚!!」
「なっ・・・離せ!!」
ズルズル・・・と引きずりながら走る忍足。
ちらっと舞佳を見る手塚。
ふと不二に言われた事を思い出す。
“恋っていうのはね、胸が温かくてドキドキするんだよ手塚”
ドキドキ?温かい?
・・・これも恋なのか???
だとしたら結構多いのだな。ふむ・・・。
なにやら勝手に納得して微笑む手塚。
その時忍足の背中に冷や汗が流れた。
「なんか嫌な予感するねんけど」
「気のせいじゃない?」
―――氷帝陣地内
「で?」
「だからすまないと言っている。」
「じゃあもう瑠璃は諦めたんだな?」
「あぁ」
「・・・(これはこれでむかつくよな)」
「あ!!」
ビクゥッ
大きな声をあげた瑠璃を跡部たちが驚いてみる。
ててて・・・と小走りに手塚に駆け寄り、両手で手を掴んだ。
「手塚さん、新しい恋を見つけたんですねv」
「!?」
(な、なんだと?いくらなんでも早すぎねぇか?;)
(切り替えはやっ)
(ちゅーか・・・・・・・まさか舞佳とか言わんよな;)
(手塚さんて意外と手はやいんですかねー宍戸さん)
(俺が知るかっ)
「へー?手塚さんて好きな人いるんだ?」
「みたいだよ舞佳。だって顔赤いもん!!」
瑠璃の言葉に全員手塚の顔を見る。
(((((((すっげぇ赤いし!!!!!)))))))
「誰なんですか?」
「それは言わなければいけないことなのか?」
「はいv」
(即答かよ;)
(はぁ・・・やっぱり嫌な予感消えへんわ;)
「えぇっ」
「・・・」
「そ、それはぁ・・・無理ですよ;」
「・・・・・・」
「手塚さん、運が悪いですねぇ。彼氏がいる子ばっかり好きになるなんて;」
「やっぱり・・・」
「なにがやっぱりなの、侑士」
「つまりや。手塚が好きなのは・・・」
「お前だよ。決定。つかそれしかねぇよなぁ」
「なっ勝手にきめないでよあほべっ」
本当なのか。
おそるおそる手塚を見る。
・・・・・・・・・ぽっ
!!!!!
「あかーん!舞佳はわたさへん」
「侑士ー;苦しいってば;」
「見苦しいぞ。お前が手塚に勝てるわけないだろう」
「や、関係ないやろそれ;」
―――なんだかんだで大会終了
ぎりぎりで青学の勝利だ。
「跡部や忍足の彼女なんだから美人だったり可愛かったりして当然だよ」
「けどまぁ・・・手塚だから;」
「あの二人の彼女に手出すなんて・・死にたいの手塚」
「・・・・;」
「不二先輩、本音は?」
「あと少しってとこで負けやがって・・・てめぇそれでも青学の部長か?」
『っ・・・・・・!?(びくびくっ)』
「なーんてね。大丈夫、僕はそんなこと言わないよ」
「すまん・・・;」
「やだなぁ・・・何謝ってんの役立たず」
『・・・・・・・』
二度と恋をしないと心に誓った手塚国光。
失恋の痛手は癒される日が来るのか・・・?
―終わり―
PR